それは、妙に蒸し暑い夜だった。
「……」
寝苦しく、なかなか寝付けない。いっそのこと眠気が訪れるまでのんびり本でも読もうかとも思ったが……明日のバイトも結構朝が早い。下手に夜更かしすると、かなり辛くなるだろう事は明白だ。だから、頑固に目を瞑っていた。
それでも眠気は訪れない。不快に過ぎるじめじめとした空気の湿気に、眠気さえも溶けてしまったのか。気分転換に水でも飲もうかとも思ったが、下手に動くと折角頭を包み始めた微睡みもどこかに行ってしまいそうで、結局そのまま目を瞑り続ける。
そんな時――カタン、と微かな音がした。
「?」
始めは、桜が部屋の前に来たのかと思った。まだ、正式に結婚していない以上、同じ部屋で寝るのは流石にどうかと思い、寝所は別々にしているのだけど……どちらかが、どちらかの部屋へと愛を語らいに来るのは珍しいことではない。
だったら話は別だ。明日辛くなるとか、そんな事は問題じゃない。俺も桜も、こういう事は妙に気恥ずかしくて最近はご無沙汰だったのだ。だから、密かに、夜な夜な心待ちにしていた彼女の気配に、俺は若干体温が上がるのを自覚する。
「……?」
しかし、一向に桜は部屋に入ってこない。いや、それよりもさっきの音自体、桜がこの部屋に来る時に立てる、板張りの廊下を踏みしめる耳慣れた物とは若干違っていた。
そもそも音が聞こえた方向自体、廊下側と言うよりも――隣の部屋からだったのではないだろうか。
いや……そんなはずはない。俺は、頭を振って己が気付いた事実から目を反らした。
確かに、俺の部屋の隣にはもう一つだけ部屋がある。しかし、そこには今誰もいないはずだ。本当に僅かの期間、俺を護ると言ってくれた一人の少女が住み着いていた以外、その部屋は誰も使用したことがないはずだった。
そして、彼女は――存在自体、あの時すべて消し去った。この手で……あの少女との絆は、俺の手によって永遠に断ち切られたはず。
だから、その部屋には誰もいないはず。そうだ、鼠かもしれない。我が家は手入れこそ行き届いているが、何せ古い。鼠の一匹くらいは住んでいてもおかしくはない。それが立てた音だと思えば、何の不都合も生じない。
しかし、いつの間にか――まだ完全には目覚めていない俺の頭は、誰もいないはずのそこに、誰かがいるとどこかで確信してしまった。夢遊病のように、布団から起き出して……襖を開ける。
「――あ」
そして、彼女は確かにいた。
窓は開け放たれ、月の光が容赦なく差し込んでくるその部屋の中央に。
「……」
言葉が出なかった。そんなはずはないと、現実から目を反らして否定するのは簡単だった。しかし――いくら朦朧とした頭でも、彼女を見間違えるはずはなく、その存在を俺が否定できるわけもない。
その光を背にして廊下に立っていたのは、黒い鎧を身に付けた、闇に包まれた豪奢な剣だった。
「……」
部屋は、静寂に包まれていた。自身の息遣いさえ耳には届かず、俺は目の前の少女を凝視していた。
黄金よりもなお強い輝きを放つ溶けた銅の瞳に、石灰石のような白い肌、闇さえも消しきれないほど深き暗黒の鎧――それらは、二度と会えるはずのない色。決して会ってはならない色だった。
「……」
虫の声すら聞こえない。あまりの静寂に、耳が痛む。
彼女は、俺をしっかりとその目に捉えている。だが、その中にある感情は全く読み取れない。月明かりを反射しながら、微塵も揺らがない瞳は、まるでビー玉のようだ。その瞳が、俺を見つめてくれている。
――一体、これは何なのだろうか。未だ意識がはっきりしない俺の頭は、そんなどうでも良い事を考える。あの時、確かにこの手で彼女の喉元を突いたはずだ。その感触は、今でも鮮明に手に、腕に、肩に残っている。
「……あ」
口が動く。しかし、自制する。一体、俺は何を言おうというのか。自分が殺した相手に対して、かける言葉などあるのだろうか。
「――」
答えは、否だ。何も言えるわけがない。何を言ったところで、それは空しく空に溶けるだろう。俺に出来ることは――ただ、彼女から目を反らさないことだけだった。
黒い剣士は、こちらを見つめながら突っ立っている。その目をどれだけ見つめ返しても、やはり感情は読み取れない。
――と。
「え?」
剣士は、いつの間にか俺の目の前に立っていた。
彼女から目を離したわけではない。いや、離せるわけがない。だが、本当にいつ近づいてきたのか判らなかった。
「……」
こちらが戸惑っているうちに、少女は無言でこちらに手を伸ばし――手のひらを頬に重ねてくる。
その一瞬、俺の体は思わず硬直した。氷かと思うほど、その手は冷たかったから。しかし、セイバーはこちらの様子など気にした風もなく、そのまま手の平で頬をさする。柔らかな手は、その冷たさと比較して随分アンバランスで、何だかこの非現実的な有様を象徴しているかのようだった。
そう、これは非現実的な光景だ。絶対に有り得ない光景だ。夢の中でさえ、許されないであろう光景の筈だ。
――だから、頬の感触は幻に過ぎず。それを失いたくなくて、俺は彼女の手を思わず握りしめた。
「……」
少女は無言。強く手を握られても眉一つ動かさず、こちらの目を覗き込むだけ。そこからは、やはり何も読み取れない。彼女が何を考えているのかも、何故ここにいるのかも、そして俺をどう思っているのかも。
「……どうして、ここに?」
だから、俺はそんな事を尋ねていた。
「……」
しかし、黒い剣士は士郎に何も答えない。俺が掴んでいる手も、俺を覗き込む目も、まったく揺れることはない。
「どうして……ここにいるんだ?」
何度問いかけても、返る答えは一切無い。まるで、人形に話しかけているかのような錯覚を覚える。
掴んでいる手の冷たさが、見つめる目の無機質さが、心臓に刺さった小さなトゲを疼かせる。どうしようもないほどの悔恨。あの戦いによって背負うことになった枷の中で、一番大きく重い物。俺が、裏切った上でさらに殺した人。他に救う方法がなかったのか。有り得ないとは判っていても、未だ考えずにはいられない。
そんな彼女が目の前に実在しているのは、いったい何の冗談なのか。
セイバーの目を見つめながら、俺は彼女が己にしていることを真似るように、手のひらを彼女の頬にやった。
「――」
やっぱり、彼女は冷たかった。それでも、彼女が目の前にいると言うことだけは確認できる。彼女が触れている自分の頬が。彼女に触れている自分の手の平が。明らかに生きている人間の皮膚の感触を伝えてくれる。
そう、彼女はやっぱり目の前に存在していて。それは錯覚でも夢でもない。
彼女……鎧を身に纏ったその少女の名前は、確か……
「セイバー……」
俺の口が、かつて何度も呼んでいた彼女の名前を呟く。
そう、これが彼女の名前だった。自分を護ると言ってくれた綺麗な少女。それさえも自分は忘れようとしていたのだろうか。
「セイバー」
その名を呟くだけで、まるでダムが決壊したかのように記憶があふれかえる。
桜と共にこちらを叱りつけたセイバー。
剣の稽古をしてくれたセイバー。
ご飯を美味しいと言ってくれたセイバー。
そして。
『貴方が私の主として相応しい限り、この身は貴方の剣となる。シロウがシロウである限り―――その期待を、決して裏切る事はありません』
俺を最後まで信頼してくれたセイバー。
「……会えて良かった」
まさか、会えるとは思わなかった。彼女に剣を突き刺した時、俺は彼女と決別した。忘れると誓った。思い出すなど許されない。だが――目の前に現れてまで、その誓いを貫けるのか。
「……」
一瞬、ごめんと謝りそうになる。だが、そんなことはしない。そんな事をしても意味はない。それは、俺自身の手で剣を突き立てた時、彼女がこちらへ向けた視線に対する裏切り以外の何物でもない。
だから、取りあえず一言だけ。
「お帰り、セイバー」
その言葉を待っていたかのように、色の薄い唇が開いた。
「はい」
そうして、一言だけ口を開いた後……彼女は一瞬にやりと笑い――そのまま、目を閉じて。
「え?」
唇を重ねてきた。
「……!?」
一瞬、何が起こっているのか俺には判らなかった。唇に氷が触れているような感触と、そして目の前一杯に一人の少女の顔が映し出されていることだけが辛うじて判断できた。
唇に触れているのは――彼女の、唇。そんなことはすぐに判ったけど……この状況に対して起こすべき適切な行動というのが思いつかず、俺の体はそのまま固まってしまった。
唇は、本当にただ触れているというだけだ。少しでも頭を後ろに反らせるだけで、そこから逃れることが出来るだろう。でも、この冷たい感触がことのほか気持ちよくて――非現実的すぎて――そんな事は頭の片隅にさえ浮かばなかった。
そうして、どれくらい経っただろう。黒い剣士は、何事もなかったかのようにあっさりと唇を離した。思わず、俺は口を開く。何のつもりか問うために。
しかし。
あれ――?
口は動くが、空気が震えない。自分の耳に聞こえるはずの物が、何も聞こえてこない。
セ、セイバー?
もう一度、言葉を吐き出そうとするが、空気は全く震えない。喉が、俺自身の要望に応えてくれない。口がぱくぱくと陸揚げされた魚のように動くだけ。
黒い魔剣はにやりとした笑みを崩さない。その笑みは、先程とは違っていた。獲物を追いつめた獅子のように獰猛なようでいて、数日ぶりにようやく一欠片の腐肉を口に出来た子犬のような無様な歓喜がそこには同居していた。
しかし、ただ一つ。その爛々と輝く目だけは変わらず真摯に俺を見つめている。その視線は、一度たりとも俺から話されることはなかった。
もう一度、唇が触れた。触れているその場所から、溶け合ってしまうような狂った錯覚が脳を満たす。
そして、そのまま俺は……溶けた銅の瞳に捕らわれた。
それまで互いにそっと触れるだけだった唇に、生暖かい湿った感触が加わる。舌だ、と狂った頭が冷静に理解する。口を割って進入してくる粘ついたそれは、甘いようで苦いようで――思わず、食いちぎりたくなってくる。
「……はあ」
どれくらい彼女の唇を感じていたのだろうか。ようやく、セイバーは俺から離れた。
「あ、う、はあ……はあ」
その瞬間、俺は思わず喘ぐ。それほど長く息を止めていなかったと思ったのに、息が上がる。いや、これは空気を求めているのではない。求めているのは――その、甘い香りさえ漂ってきそうな、真白い肌か。
「ふふ……」
俺の視線の先には、白く黒い少女の姿。少女は、まるで魅せつけるように毒々しい赤い舌をその唇から出して己の唇を舐めまわし、
「……貴方の唾液は美味しい」
これ見よがしに、淫蕩な笑みを浮かべる。
その姿は、男の本能を直撃する。思わず、ゴクリと喉が鳴る。その漆黒の鎧に隠された胸元に、食らいつきたくなる。極上の砂糖も及ばないほどの甘さだろう。それを味わえたら、どれほどの至福か――想像も出来ない。
「はあ……はあ……」
ただ、口と口を合わせただけなのに――もはや、理性さえもこの淫靡な空気に溶かされかかっている。頭はどこかがおかしいと感じているのに、何も考えられず流されるだけ。ただただ、彼女のかき抱き、そのまま壊してしまいたくなる衝動だけが、どこからともなく沸いてくる。
「さあ……」
セイバーは、再び唇を重ねてくる。先程のでは全く足りないというように、強烈な力で抱きしめられる。鎧を着込んでいる少女の身体は、それでもとても柔らかかった。
「――うお?」
そして、彼女は俺を押し倒そうと力を込める。
濡れた目に熱い吐息、冷たい体温、何より恐ろしいほどの筋力に圧倒されて、俺は思わず蹈鞴を踏む。しかし、そもそも拒もうとさえしない肉体は、当然勢い良く押し倒される。
下は畳。成す術も無く、それに体を思いっきり打ち付けてしまった。だが、頭だけでなく痛覚まで都合良く麻痺しているのか、まったく痛みは感じなかった。
セイバーは唇を外さず、俺の体をさらに強い力で抱きすくめてくる。両の頬を鷲掴みにされ、口付けもさらに激しくなってくる。
「ぐちゅ……ぐ、うう」
セイバーの舌が、俺の唇を割って進入してきた。こちらの唇、舌だけでなく、頬の内側も、喉の奥まで味わい尽くそうかというほど。空気を吐き出し、そして吸い込み。まるで、俺の口内にしか酸素が存在しないとでも主張するかのように、彼女は執拗に口の中を舐め回す。
「ん……ん!」
舌を絡ませ、そのまま引き抜かれるかもしれない。そんな恐怖さえ感じる熱烈な口付け。
だが、それさえも至福と感じてしまう。耐えられない。彼女の唾液が口の中に落ちてくる。それは、彼女が言ったようにとても美味しい。俺はあまり酒を飲んだことはないから、酒の味も良く判らないが、美酒とはこのような物なのだろうか。
苦いようで、甘いようで――とても気分が良くなってきて。ずっとされるがままだった俺は、いつの間にか自分から口付けを返していた。
「……はあ、はあ……さあ、もっと……深く」
誘うような声につられて、なお深く。色素の抜け落ちた少女の唇に、己のそれを押し付ける。吐息が交換される。繋がる。唇がとても熱い。炙られているかのようだ。
「……ん……う……あ、はあ……」
力が入らない。まるで濡れに濡れ、粘ついた部屋の空気にまとわりつかれたかのように、ゆっくりとしか体が動かない。酷くもどかしい。それでも、力の限りセイバーの体を抱きしめて、その甘い唾液を吸い上げる。
「あ……ん……」
その動きに、セイバーも合わせてくれる。背中に回された腕は、優しく、でも力強く抱きしめてくれる。
――その手が触れている場所が、とても――熱い。焼け死にそうだ。先程までは氷のように冷たかったセイバーの身体は、まるで太陽にでもなったかのように熱く、俺の肌を容赦なく焼いた。
アツクテアツクテタマラナイ。堪らないから、服を脱いだ。
「あ、ふう……」
シャツを脱いでいる間も、彼女との口付けは止めない。止めてしまうと――この異常な空間そのものが崩壊してしまいそうで。いや、それ以上に気持ちよすぎて――止める事なんて考えられない。
唇が、舌が、熱さに耐え切れず雪のように口の中でとろけてしまう。ビチャビチャと、とにかく下品な音さえも気にせずに、俺はセイバーを求め続ける。
「……ん、ん…………」
「んむ、あむ……ん……」
――どれくらい経過しただろうか。数時間のような気もするし、数秒と言われても否定は出来ない。心臓の鼓動が不規則すぎて、俺は自分の時間感覚に自信が持てない。
このままでは窒息死してしまうと、暢気に思っていると――俺たちはどちらからともなく、ゆっくりと顔を離した。
「はあ、はあ……」
セイバーの瞳は、まるで泣いているかのように潤んでいる。さっきまでの乾いた暖かみのない目が嘘のよう――
「え……?」
ふと、セイバーが口の端をあげる。そして、自分の胸元に手をやり、黒い頑丈な鎧に手を添える。次の瞬間には――鎧はあっさりと消え去った。元から、そこには何も存在しなかったとでもいうように。
後には、彼女を先程まで包んでいた漆黒の鎧とは対照的なまでに真白いブラウスだけが残っている。
「――?」
彼女の意図は理解できなかった。いや、理解しようともせず、俺の全神経は「そこ」に釘付けとなった。
「ふふ、さあ……」
セイバーは婉然とした笑みを投げかけ、右手で俺の手を取る。そして、残る左手だけで器用にブラウスのボタンを外した。
一つ、また一つと。まるでこちらを焦らすように。そのままはだければいいのに、胸元のボタン一つだけ残してしまうから、こちらの目に入るのは白い肌だけだ。
――その白い肌が眩しい。目が眩みそうになる。でも、さらにその奥が見たいから目が反らせない……
そんな俺の視線の意味を察したのか。
「ふふ。見たいですか……?」
挑発するような言葉を投げかけてきた。疑問系だが、その実俺の欲望などお見通しであるのがはっきりと判る。俺の答えなど待たず――彼女はそのまま、俺の手を掴んでいた左手を、胸元に導く。
「あ――」
「さあ、どうしたいです? 貴方が望むなら……」
そして、胸に触れるか触れないかという絶妙の位置で俺の手を離して開放する。だが、俺の腕は、まるで空中で縫いとめられたかのように静止していた。
「どうします?」
ちらちらと。ブラウスの胸もとの布をつまんで、俺の目に胸の輪郭が飛び込むように調節している。しかし、決して全ては見せない。
「見るだけでなく。その先まで――どこまでも自由にしていいのですよ?」
そんな言葉が耳に入るまでもなく。俺は彼女の胸元を掴んで乱暴に引っ張る。この程度の挑発でも暴発してしまうくらい、もう俺の頭の中はぐつぐつと煮えたぎっていた。
ボタンを外すなんてもどかし過ぎる。だったら、そのまま弾き飛ばしてしまえばいいだけだ。
少女は抵抗しない。それを良いことに、俺はブラウスの胸元を掴み、引っ張る。それほど力を入れたつもりはなかったけど、胸元だけを止めていたボタンは派手に飛んだ。服も、少し破れたかもしれない。でも、関係ないことだ。そのまま、一気にブラウスの肩口も掴んで、下にずり下ろす。
「……はあ……はあ……」
白い――白すぎる肌が現れた。とても剣を振り回せそうにないほど華奢な肩が、小ぶりな乳房が、桃色の乳首に至るまで――全て目の前に現れる。
それは極上の肉であり、果実だった。目の前に差し出されれば、どれだけ満腹な状態であろうと口にせずにはいられない至高の一品。
ただでさえ、焦らされて餓死寸前だった俺は、彼女に確認すらせず、容赦なくその実に噛り付いた。だって、そうだろう。あれだけあからさまにこちらを挑発しておいて、ここで断るなんて有り得ないし許せない。だったら、いちいち許可を取るなんて間怠っこしい。
「……ぁっ」
一瞬だけ、本当に小さな鳴き声が鼓膜を震わせたけど関係ない。そんな事にかかずらってる暇はない。早く、この飢えを、渇きを癒したい。それだけしか、考えられなかった。
そして、この飢えを癒すためには目の前の果実を食べ尽くすより他はない。
「は、ふう……ふふ、随分と手馴れて、いますね。誰を相手にしているのやら、少し……妬けなくもない、ですが」
何か言っているような気もするけど、何も聞こえない。何も考えない。ただただ、目の前の柔らかい果肉を啜るだけ。甘噛みしながら、遠慮なく舐めあげる。
「……うぁ……はあ、くっ……」
少女は喘ぐ。まるで、溺れているかのように。彼女の声は耳朶を振るわせ、さらに俺を興奮させる。
俺の興奮を少女は認識しているのか、声を潜める気配はない。気持ちいいという己の感覚を、恥じらいさえ含んだ声で包み隠さず伝えてくる。
「はあ……ふ……んむ、ん」
まるで白磁器のように病的までに白かった肌は、今や上気しきって桃の色に染まっている。比例して、氷のように冷たかった肌も、火傷しそうなくらい熱くなる。冷たく瑞々しい果物は、今や極上の肉となってこちらの舌を楽しませる。
もう、ただ舐めるだけでは収まらない。俺は強く齧り付く。
「……つ」
それが、乱暴だったためだろうか。それまでは快楽の色に染まっていた声音に、初めてそれ以外の感覚が混じる。ほんの微か、痛みを訴える少女の声。そして、囓った箇所も僅かに赤くなっている。
そして、いきなり両手で俺の顔を挟み、強引に首の向きを変えさせる。目の前に現れたのは、楽しそうに揺れる猫のような黄色い瞳。
「あまり犬のようにがっつかないでください。女体というのは、繊細な代物です。扱うなら、もっと丁重に扱うべきです。例えば」
俺の愛撫を楽しんでいたセイバーは僅かにむっとしたような、拗ねたような顔をしていた。彼女の印象が、今までの冷たい胸像のようなものから一変する。
その怪しい笑みに見蕩れる。そんな呆けた俺の顔を、やっぱり楽しそうに見つめながら彼女は言った。
「こんな風に」
両の頬を押さえる力が強くなる。有無を言わさず、頭が空間に固定される。しかし、それに逆らうことは出来なかった。何故なら――美しい顔が、どんどんと近づいてきたからだった。そんな淫靡で楽しそうな瞳に見つめられ、俺は凍りついたかのように動けなかった。
「女と言うものは、適度に優しく……しかし乱暴に扱うべきです」
呟きながら、彼女は無遠慮に、手をこちらの頬から離す。そして蛇のように俺の首に巻き付け、同時に――何度目か判らないが――その可憐な唇をまた押し付けてきた。
「う……」
もはや、彼女の唇には最初に感じた冷たさなど微塵も無く、ただただ火傷しそうなくらい熱かった。いや、火傷などとうに通り越し、既にそこは溶けかかった脂肪に成り下がっている。そんな唇を持つ少女の欲望を拒む事は出来ない。いや、むしろ俺自身が積極的に少女を受け入れようとする。
少女の下を舐めあげようとして――以前とは明らかに違う感触が存在した。
「う……!?」
「私が、女性のというものを教えてあげましょう。貴方の手管は少々乱暴で稚拙故に。しばらく……じっとしていなさい」
セイバーは……首に巻かれた腕で顔を固定されているため、目で確認は出来ないが、それでも判る。彼女は、俺の首に巻いているのとは別の手で、おもむろに俺の股間を撫で上げてきたのだ。
「……ぁ……」
思わず、声が漏れそうになる。しかし、口はセイバーの口によって完全に塞がれていて、俺はただ呻くことしか出来ない。
「う……」
「ふう……」
ゆっくりと、嬲るように股間を撫でる。まるで、親が愛し子の頭を撫でるかのように。触れるか触れないか、実にもどかしい動きで摩り続ける。
「くく……」
少女は俺と唇を合わせながら、鳩のように喉の奥で怪しく笑う。俺が呻きと共に吐き出した熱気は、セイバーの口内でかき回されて、再び俺の口に戻ってくる。自分とセイバーの吐息が混じったその空気は、甘く苦く味など分からず、脳を麻痺させる。
「う……」
セイバーは、いつの間にか唇を離していた。口寂しさから、慌ててもう一度と口を寄せる。しかし、セイバーはそれを避けるように顔を背けてしまう。
「あ……」
「ふふ、あまりがっつくなと言ったでしょう。安心しなさい。じっくり攻めてあげます」
そういいながら、セイバーの顔を掴もうとしていたこちらの手を優しく掴む。そして、もう片方の手は股間から離れない。
「さて、随分と張り詰めていますね。我慢せずに出せば良いでしょうに」
「そ、そんな……事できるわけないだろ」
「何故? 口付けだけで達するなど情けない、と? 男の矜持というものですか。別に早かろうが遅かろうが関係はない物を」
セイバーは、ややぎこちない手付きでこちらのズボンと下着を外そうとする。その際に擦れる布の感触だけで、思わず……出そうになってしまう。
「あ……うあ」
「我慢する必要はありません。喘ぎなさい。男と言えど感度が良いのはむしろ誇るべき事。それに……」
ようやくチャックの位置が判ったのか、セイバーはゆっくりとズボンをはだけさせ、ペニスを取り出す。一瞬、それを見つめる目がまるで獲物を視界に納めた獅子のように揺らいで見えた。
「……こうして間近で見るのは初めてですが、なかなかどうして迫力がありますね」
恐れ気も無く、おれの怒張したペニスをマジマジと見つめる。微かに頬を赤く染めながらも、面白そうにペニスへと顔を近づける。
「随分と大きい。ふふ……私に色々とされるのを期待しているのですか?」
まるでこちらを辱めるかのように饒舌になるセイバー。対して、こちらは突発的な恥ずかしさで言葉も出せない状態だ。腰を引こうにも、今の俺はセイバーに圧し掛かられている体勢だ。腰など引けないし、まして突き上げようものならセイバーの顔にペニスを付き付ける事になる。
「う、うあ……セ、セイバー、よせって」
「……何を今更。あれだけ熱烈な接吻を交わしておきながら、ここで止まるわけもないでしょう」
そうして、あっさりとセイバーは俺のそこを無造作に掴んできた。
「ぐ……」
「ふふ……なかなかに可愛らしい声を漏らしますね。しばらく、その声を聞かせて貰います」
言うが早いが、セイバーは指を輪にして男根をゆっくりと摩り始める。それは、ズボンの上から撫でられるのとは比べ物にならない気持ちよさだった。
「うあ……ちょ、セイバー」
「……やめろとは言うのですか。まさか。気持ちが良いのでしょう?」
……セイバーの言うとおりだ。言えるわけが無い。感触など感じなくても、セイバーの白魚みたいな指が、俺のグロテスクなそれに蛇のように巻きついている光景を想像するだけで、達してしまいそうだ。
「……あ、ぐ」
「ふふ……黙って喘ぎなさい。もっと気持ちよくしてあげます」
すっすっと擦れる卑猥な音が耳に届く。ゆったりと、こちらを嬲るように動かす。
もっと、もっと強くと身体はせがむが、セイバーに圧し掛かられた状態だと思うように身動きが取れない。腰を突き出したくても、セイバーが重石になってしまっている。
セイバーもそれは判っているのだろう。わざとらしく、こちらを畳に押しつけるかのように体を載せてくる。柔らかい肉の感触が、さらに理性を奪っていく。
「どうです? こうすると気持ちが良いでしょう?」
手だけではなく、胸や腹など、体全体を男根に擦りつけるようにセイバーはゆっくりと体を揺らす。それは、確かにとても気持ちが良い。でも、とてももどかしい。
それでも、セイバーはこちらから動かすことを許してくれない。そこで、しばらくじっとしていろと銅の瞳が睨め付けてくる。その目に、俺は――どうしても逆らえない。
「ふふ……」
妖しい笑い声が鼓膜を震わすたび、身体の奥から何かが込み上げて来る。
出したい。ぶちまけたい。その、白い肌を汚してみたい。
しかし、その意思を読んだのか、それとも単に偶然か。
「あ……」
彼女は、それまで続けていたもどかしいまでの行為さえ停止させてしまった。当然、行き着くはずの快楽もその場で停止してしまう。俺はの興奮は収まるわけもなく、昂ぶった気持ちを持て余すだけだ。
「……」
しかし、何となく続きを要求する気にはなれない。それは、随分と情けないような気がするからだ。男の方から快楽を要求するというのは……
そんな俺の内心をおそらく察しているのだろう。彼女は、微笑みを崩さない。
「安心しなさい。ここで終えるような真似はしませんよ」
言いながら、セイバーは手を伸ばしてくる。指が、軽く俺の唇に触れる。
「しかし、私が教えるだけでは知識が偏ってしまいますから。やはりこういったことは複数の手によって教え込んだ方がいい」
笑みは崩れない。だが、身体を押さえつける力が急激に強くなっていく。
「セ、セイバー?」
圧迫され、やや息苦しくなる。思わず、俺は少女の名前を呼ぶ。だが、彼女はさらに力を強めながら、こちらの腕を手に取り――そのまま、腕を捻り上げる。
「……っ」
鋭い痛みに、思わず呻いてしまう。それだけ、強い力だった。反射的にその拘束から逃れようともがくが、全くビクともしない。
「……少し、失礼します。何、しばらくの辛抱ですよ」
俺の抵抗など意に介さず、セイバーは俺を拘束したまま立ち上がる。当然、俺も立ち上がらされる。それでも、万力のような力で俺の腕を固定するセイバーの手が外れることはない。
俺もセイバーも全裸だった。半ば振り回された視界の中で、セイバーの胸とか自分の剥き出しの股間とかが目に飛び込む。そのせいか、ちょっとした異常事態だと言うのに恥ずかしさの方が先に立つ。
そして、セイバーはそのまま俺を連れて歩き出す。とは言っても、廊下の方では無い。隣の部屋とを繋ぐ襖のほうだった。
「……」
いつの間にか閉じている襖を音もなく開ける。そこには、何もないはずだった。
「え?」
だが、そこには……何故か椅子に縛り付けられた白い剣を見て――ただでさえこの異常な状況を疑問に思わないほど麻痺した俺の脳は、完全に一切の機能を停止した。
白い剣は、椅子に座らされ、さらに冷たく輝く黒い鎖で拘束されていた。その身を包むのは目が覚めるほどに鮮やかに染め抜かれた青い衣。翡翠のような柔らかな瞳。
少女は――今、俺を拘束している背後のソレと同一の存在だった。
何故、ここにいるのか。彼女らは、同時に存在などできないはず。そもそも、あの時に汚染された彼女は、二度と白い聖剣に戻れないはずだ。なのに、今、目の前に彼女が存在しているというのは、一体どのような奇跡なのか。
「あ……」
彼女はこちらに目を向けた。当たり前だ。目の前にいるのだから、気付かぬはずもない。
「……ああ……」
そうして、少女は俺を見て感極まったように涙を流した。
「……お久しぶりです」
……その言葉は、良く聞こえない。その姿は、良く見えない。それでも、俺は言葉を返す。
「ああ……良かった。生きていたのですね」
声が震える。あまりに感情が高ぶって、半ば呆然としていたからか。絶対に会えないと思ったその姿。絶対に裏切らぬと誓ったその声。それが、変わらず目の前にあることはどれほどに有り得ないことなのか。
それは――彼女自身と契約していたこの手だけが知っている。
「どうして……」
黒い少女に対してと同じく、思わず疑問の言葉が口に付いたが、しかし最後まで続けられなかった。背後の少女が、いきなり背中を強く押したからである。
「うあ!?」
俺はそのまま目の前に倒れ込む。それは、白い少女にのし掛かるのと同義だった。
「ぐ……」
いきなりの衝撃に、どこかを打ったのか少女は苦悶の声を上げる。
「す、すまん」
しかし、これで目の前の少女が幻などではないことが明らかになった。触れられるし、とても暖かい。背後の少女と同じく、彼女は本当にこの場にいるという実感があった。
「……セイバー、これは一体」
だからだろうか。まだ白い少女を直視することは出来なかった。それは、罪悪感なのか嬉しさから来る単なる照れなのか、それとも全く別の感情なのかは俺自身理解できなかった。
しかし、俺の困惑を他所に背後のセイバーは淡々と語る。
「疑問に思う必要など無いでしょう。在るから、在る……私と同じく。それだけで十分ではないですか」
そう言って、俺が再度疑問の声を上げる前にまたしても俺に圧し掛かってきた。そのまま、俺の脇から手を差し入れて強引に引き起こす。そして、耳元で囁くように。
「それよりも……続きを楽しみましょう」
「お、おい……説明を……」
「……拒まないでください。彼女も見ている」
その声に、びくりと体を震わせたのは目の前の白いセイバーだった。黒いセイバーの目を追って彼女の様子を見れば――彼女は熱っぽい目で俺を見ていた。
「その……折角ですが、こういう格好は少し困る」
「う……」
急に気恥ずかしくなる。こちらは二人とも裸で、俺はセイバーにがっちり捕まれた身動きが取れない状態。向こうは服こそ着ているが鎖に縛られている。それは異常とさえ言える光景の筈だ。素面なら、到底直視は出来まい。
「いや、これは……だいたい、なんで鎖なんかで繋いで……えっと」
一瞬、どのように彼女たちを呼べばいいのか混乱して、言葉に詰まった。
「呼び名に困るのですか?」
黒いセイバーが、核心を突いてくる。それに、思わず頷くと……セイバーは、ちらりと縛られたセイバーの方を見やった。その視線は……何というか。まるで、親の仇でも睨むようでいて、天使に焦がれ見惚れる聖女のようでもあった。
その矛盾した視線は、一瞬と呼んでもいいくらい短い時間しか続かなかったが――俺には、まるで彼女が号泣しているように見えた。
「ならば、私はアルトリアとでも呼べばいい……私は、彼女と違って騎士という呼称に固執はしていないし……そもそも、相応しくはないからな」
「え……?」
彼女が発した単語……アルトリア、というその響きは、なんだかとても胸に響いた。
「……アルト、リア?」
一度だけ、その名を呟いてみる。だが、瞬間、その名を口にするのはしてはいけない事だと何故か確信していた。何の根拠もなく……心の中ではともかく、それを俺が口にしては駄目だという思いが支配する。
惚けたように、二の句を告げない俺をセイバーは睥睨する。己を、それとも俺を……嘲るように黒いセイバー、いや、アルトリアは言った。
「……ふん、どこにでも有るような名前だ。主を守れず、おまけに堕落して反旗を翻し、それでいながら未練たらしく執着した、救いようのない……名前だ」
急に言葉遣いが乱暴になった気がする。まるで、人が変わったかのよう。反論を許すような空気は微塵もない。思わず黙り込む俺には構わず……いや、先程の言葉は俺にと言うよりも、むしろセイバーの方に投げかけられた言葉のような気がする。そのセイバーはというと、特に反論するでもなく、しかし同じような瞳で彼女を見つめている。
「……別に、呼びたくなければ構いませんが。さて、先程の問いですが」
セイバー……いや、アルトリアはこの話題を打ち切るように強い語調で続ける。言葉遣いも、元に戻った。まるで、先程のそれが空耳だったかのよう。だが、どうしてだろうか。彼女のその言葉が、大分無理をしているような気がするのは。まるで、何かを隠したがっているような不自然さが感じられた。だが、俺の疑問など彼女は知る由もない。
「縛ったのは、そっちの方が楽しめそうだからです。それで良いでしょう。あれでは……自分を慰める事もできないでしょうし」
「……ちょっと待ってください。せめてこれだけでも解除してください」
セイバーは肩を揺すって、鎖を鳴らした。それを、アルトリアは一笑に付す。
「何を言っているのですか。彼を味わうのは、まずは私からです。だから、貴方はそこでただ見ている……そういう約束だったでしょう」
その言葉に、セイバーは悔しそうに唇を噛む。セイバーも、アルトリアも、互いの存在を当然の物として受け入れているらしい。
「ここに来たのは貴方の意志ではなく私の意志。貴方は私にただついてきただけ……貴方は、そこでじっと見ていなさい」
そういって、アルトリアは背後から抱き付くようにして俺を拘束している腕を解く。そうして、自由になった彼女の手は、素早く移動して俺の下半身を撫で上げる。腰、太ももを伝って、やがて……
「ちょ……おい!」
慌てて制止しようとこちらも彼女の腕を掴むが、まるでびくともしない。さっきもされたこととはいえ、流石に彼女の目の前で痴態を晒すなど冗談ではない。
「何を怒鳴るのですか、全く……さっきは貴方も喜んで私の体に股間を擦りつけていたでしょうに、何故拒むのです。だいたい……これほど元気なのに、断るなど男らしくもない。男なら、堂々としていなさい」
だが、アルトリアは俺の事など気にもしない。いや、どちらかというと逆らおうとする俺の行動に多少機嫌を損ねたらしい。どこか拗ねたように……躊躇無く俺のそれをつかみ上げる。
「うお!」
それは、さっき二人だけで抱き合っていたときにされたのよりも、さらに強い刺激だった。それだけで、一瞬達してしまいかねないほどに。
「……ふふ、それで良いのです。それで……」
俺の背後に取り付いているから良く判らないが、彼女は俺の思わず上げた声に満足げに微笑んだようだった。
「私の手で、気持ちよくなりなさい。何も考えられないくらいに……」
彼女は、片手で俺の股間を掴む。さらに、器用に片手だけで、俺の両手首をまとめて縛り上げる。俺の目からは見えないが、荒縄のような感触がする。さらに、俺の腰を後ろから――セイバーは俺の背中でしゃがみ込んでいるのか――腰、尻、太腿などに鼻先を軽く擦り付けてくる。
「ひっ、あ、う……!?」
さらには、舌で尻を舐めてくる。異様な感覚が、背筋を一気に貫く。思わず彼女の舌から逃れようとして――しかし、出来なかった。そうすると、当然目の前のセイバーに……そいつを突き出すような形になってしまう。目の前のセイバーはそれを見て、顔が真っ赤になっている。当然だが、俺も死んでしまいたいくらい恥ずかしい。
そんな俺はお構いなしに、背後から忍び寄る手は、握りしめたそれをゆっくりと前後させる。舌は、子犬がじゃれるように肌を舐める。本当に、ゆっくりと。それは、男の自慰の動きを真似たもの。二人の時よりもさらにゆったりと焦らすようなその動きは、まるで目の前の少女に見せつけるかのようだ。
さあ、よく見ろと。そうやって語りかけるようにアルトリアは嬉しそうに俺を嬲る。
「う……ちょ、ちょっと待て。見られて……るぞ」
「ふふ、見せれば良いでしょう。彼女だって、嫌なら目を反らすだろうに……あのようにじっと見ている。また随分と熱っぽい目をしていますね」
俺の抗議など、彼女は聞こうともしない。そして、彼女の言葉通り、縛られたセイバーも目を閉じはせず、むしろ瞬きする暇さえ惜しむように、突き出されたそれを凝視した。
――気恥ずかしすぎて死にたくなる。とにかくじたばたと暴れてみるが、腕を縛る縄はびくともしない。実は腕を縛っているのは縄ではなく、俺の体が凍り付いただけではないかとさえ想像してしまう。
俺の必死さとは対照的に、アルトリアは俺のペニスをゆっくりとしごく。
「……ほう。これで限界かと思いましたけど……まだ大きくなっています。随分と立派ですが……見られて、興奮しているのですか?」
「んなわけ……ないだろ」
「そうですか? いや、別に貴方を侮辱するつもりはありません。このような状況ならば当然。それに……私としても、貴方が興奮してくれた方が嬉しいから」
「……何を言って」
思わず首を捻り、背後の彼女の顔を見る。それは、俺を凝視しているセイバーの目を逃れるためでもあった。熱病に冒されたような囚われのセイバーは、焦点の合わず、しかしじっとおれのそこを見つめていた。
対照的に、俺を捕らえるアルトリアは楽しそうに微笑んでいる。
「どうですか、もう一人の私。このように見るのは初めてでしょうが……彼の雄の象徴はなかなかに逞しいとは思いませんか?」
「う……はい、とても……立派だと。それに、動くのですね。びくびくと、まるで生き物みたいで……何だか、可愛らしい。匂いも……強いです」
楽しそうに質問するアルトリアに、戸惑いつつも息も荒く答えるセイバー。彼女は、熱病に冒されているかのように目を潤ませている。その様子に、アルトリアは満足そうに頷いた。
「あのような物欲しそうな顔をして……なかなかそそるとは思いませんか?」
「あ……ぐ」
背後から尋ねられるが、そんな問いに答えられるはずもない。彼女の顔など羞恥でとても見られなかったし……それ以前に、ペニスをゆったりと撫で上げる彼女の動きに感情などとうに溶かされている。
アルトリアの声は、当然セイバーにも届く。少女は、一瞬だけ我に返ったのか否定の声を上げる。
「そんな……そんな顔などしていません! 私を侮辱するな……!」
「ふん、睨んでも怖くなどありません。だいたい、そんな発情した犬のように息を乱した状態で説得力も何もあったものではありません」
アルトリアの言葉通り、セイバーはこの部屋の熱さに溺れているかのように、呼吸を乱している。そして、その肌は灼熱の太陽の光を浴びたかのように上気している。
「だいたい、そんな熱っぽい目で見て……誤魔化せるはずもない」
「そんな……事は……」
セイバーは、否定しようとして……しかし、否定しきることが出来なかった。
「そら、言ってやりなさい。この淫乱な女に、何か言葉でもかけてやりなさい」
楽しそうに、アルトリアは嬲る対象を俺に切り替えたらしい。手の動きは全く衰えないどころか徐々に強くなってきている。俺は、堪えるだけで精一杯だ。
「何かって、セイバーに何を言えって……う!?」
少女は、やたら強い力でペニスを握りしめてきた。鈍い痛みが、そこから伝わり思わずうめく。
「……彼女の名前は、躊躇無く呼ぶのですね」
一言、一切の色を無くした声音で少女は呟いた。それは、本当に一瞬で、次に彼女が呟いた言葉には、既に先程から続く揶揄の色が潜んでいる。だが、そこには思わず恐怖すら感じるほどの冷たさが存在した。
「まあ、良いです。それより、彼女にかける言葉ですが……さあ。それは貴方自身で考えなさい。淫売と罵るも良し、囚われの姿を嘲笑うも良し。きっと、どのような侮辱であろうと喜んでくれるでしょう。だって……」
アルトリアは、俺を扱く行為を一旦中止した。それに、思わず続けてくれと懇願の声を上げそうになる。そんな俺を横目で見ながら、彼女は俺の肩越しに身を乗り出し、手を伸ばした。
手の行方は――目の前の少女の青いスカートだった。
「な、何をする!?」
「……愚問。貴方の浅ましさを彼に確認して貰うだけです」
じたばたと暴れる少女を、アルトリアは詰まらなそうに見つめる。その眼差しに、先程から感じる冷たい恐怖が溢れているのは気のせいだろうか。そのまま、無遠慮にスカートを持ち上げる。
「……ほら、何か言い訳でもありますか?」
「……くっ……」
そこは、暗い部屋の中でも判るくらいに潤っていた。下着など身につけていないそこは、触れればそれだけで音が響きそうなくらい。セイバーは縛られているため、不埒な行為に対して無防備なまま。ただ、悔しげに眉を潜め、抵抗の意志を示すかのように足をぴったりと閉じている。
それでも――太ももまで濡れていては、隠しようがない。
「また随分と……私でも予想が出来ない量です。ほら、よく見なさい。これほど彼女は興奮しているのだから」
少女は、己と同じ姿をした存在を貶めるように笑う。
だが、言われるまでもなく俺の目はそこに釘付けになる。濡れそぼったそこは、閉じられていて完全には見えないのに、目眩がするほど魅惑的だ。真っ赤になって目を伏せるセイバーの姿と、青い衣が捲れ上がっただけのその姿は、瞬きすることさえも惜しい。
今、アルトリアは俺の手を拘束しているだけで、ペニスは弄っていないのに……俺は、彼女の姿を見ているだけで、射精してしまいそうだった。
「さて……いい加減、出してしまいなさい。サーヴァントとして、マスターを快楽に導いてみせよう」
アルトリアは、白い少女を辱めるだけ辱め、そして元の位置へと戻った。俺の体は、無様にもその動きに逆らうことは出来ない。
「すみませんね、途中で放り出してしまって。今度は一気に気持ちよくしてあげましょう」
言うやいなや、アルトリアは俺のそこに指を絡ませ、いきなりとんでもない速度で扱きだした。さっきまでとは段違いだ。いきなりだったので、痛みさえ感じる。
「うわ、あ、あ!?」
「ふふ、酷い声です……それにしても、この男がこのように恥ずかしがる顔もなかなかそそられますね」
「うる、さい。いい加減に……」
「やめろ、と? 心にもないことを言う必要はありませんよ……そら」
しゅっ、しゅっと蛇じみた動きで少女の指が幹に絡まり、扱く。それだけでなく、掴む力まで強くなってくる。
「あ、う!」
「サーヴァントが気持ちよくしてやっているのです……マスターらしく、堂々と奉仕を受け止めなさい」
限りなく優しいその声に、思わず全てを委ねたくなってしまう。しかし、それは出来ない。単純な、男の矜恃というのもあるが、それ以上に――このまま続けてしまうと、いずれは目の前の少女をそのまま穢してしまいかねないからだ。
だから、何とか堪えようと前進を緊張させる。しかし、アルトリアにはお見通しだったらしい。
「……そんな事など、気にする必要などありません。さっきは出し損なったのだから、堪えずに出してしまえばいい。一度や二度で終わるほど柔でもないでしょう。そこまで私を拒むのなら……貴方自身に、貴方がどれだけ無力なのか教えてあげましょう」
一度に手首の動きは激しくなっていく。さっきまで耐えていたが、これではうめき声を出さざるを得ない。
「……お、まだ堅くなるのですか。元気ですね……これはかなり楽しめそうです。そうは思いませんか?」
「あ……その……」
それまで、まるで夢でも見ているかのようにぼんやりと、しかしねっとりと俺を見ていたセイバーは、突然話を振られて慌てる。
「ほら……よく見てみなさい。彼は縛られた貴方を見て興奮しているのですよ。ふん……正直、私にとって気分は良くありませんが」
「あ、わ、私を……?」
「そうですよ。ほら、こいつが証拠。こんなにいきりたっています……これが何よりも、誰よりも如実に彼の興奮状態を表しています。さっき、私の裸を見ても、ここまで堅くはしなかったというのに……」
ぼんやりと、まるで酔っているかのように潤んだ目でこちらを見るセイバーは、正気を失っているように見える。そうでなければ、あんな縛られているのにさして抵抗もせず、ただ為すがままという彼女の状態に納得がいかない。
だが、俺に疑問を疑問に思えるだけの余裕はない。アルトリアは、俺を容赦なく嬲り続ける。
「そら……こうしてやると、また卑しく快楽を求め続ける。私が押さえつけてやってるからまだ普通に立っていますが、もしこの手を離してしまえば犬のように激しく腰を振るのではないでしょうか」
「そ、そんなわけ……ないだろ」
別に彼女は、俺を押さえつけているわけではない。ただ、腕を縛り上げて拘束しているだけだ。彼女が言っているのは、単なる侮辱でしかない。
――それでも、否定の言葉に力がないのは、快楽が恐ろしいまでに高まっているからだ。セイバーに見られてる、という事実が快楽と同時に自我を保つ手段にも為り得ているから、何とかこれ以上無様な姿をさらさずに済んでるが……これ以上何かをされたらどうなるのか、俺にも判らない。
だからこそ、こっちは彼女に同調することは出来ない。湧きあがる、得体の知れない快楽に対して必死に抗う。
「う……ああ……」
「ふふ……どこまで耐えられるか見ていてあげましょう」
徐々に、しかし確実に、セイバーの手の動きは速くなる。それに、耐えられなくなるのは時間の問題だろうが……
「う……ちょ、待て、あ……う!?」
「……待ちません。そんな必要などありませんから。ここはビクビクと震えています。見られて、それで感じているのでしょう?」
まるで玩具でもいじっているかのように楽しそうな声だ。事実、楽しんでいるのだろう。
彼女の言葉に嘘はない。今にも、懇願の言葉が喉から溢れそうだ。目の前のセイバーは、まるで磁石で吸い寄せられているかのように、俺の痴態を凝視している。その目は、羞恥で濡れていて、好奇心に満ちている。
前後だけでなく、揺らすように左右へと捻りまで加えた動きは、到底耐えられる物ではなかった。さらには指先で鈴口を捏ね、カリを擦り……
「待て、本当、に、待て……おぁ!」
「……はあ……ふぅ。もっと……喘げ。足掻け足掻け、暴れて……私の腕を逆にねじり返してみせなさい」
無茶なことを平気で言う。片手でありながら、俺の両腕を背後で拘束している彼女だ。そこから逃げ出せるものではない。ただ、俺は彼女の動きに翻弄されるだけでしかなく……ついには、限界を迎えた。
「う、うっ!?」
「ああ!? ……熱……!」
「ふふ……随分と……」
射精と同時に、か細い悲鳴と無邪気に喜ぶ声が聞こえた。見ずとも判る。一つは、目の前の縛られたセイバーのそれだ。目の前で射精されながらも、それでも逃げることを許されない彼女は白い汚れた精液を頭から被っている。もう一つの無邪気な声は、俺の肉棒を扱いていたアルトリアの声だった。彼女は、俺の尿道に残る最後の一滴も残らず絞り出してやるとでも言わんばかりに、未だ扱き続けている。
「ちょ……うあ」
「は……あ……随分と沢山出してくれましたね……」
達して、一気に敏感になったそこに、彼女の手の刺激は間髪入れずに刺激を与えてくる。
「うあ……は、が、はあ……はあ……」
「気持ちよかったですか……?」
アルトリアの問いに答えられるわけもない。いや、答えられないが、答える必要もないだろう。まるで根こそぎ搾り取られたかのような射精だったが、ようやく終わった。
そして、恐る恐るセイバーの方を見やる。彼女は、顔と言わず、金の髪と言わず、空色のドレスと言わず、捲れ上がったスカートから覗く女性器と言わず、俺の精液を満遍なく被っていた。
「あ、う……あ……すまない」
その姿に、とてつもない罪悪感と……とんでもない支配欲が俺の中で交錯する。俺が放った精液にまみれたその姿は、とても――有り得ないくらい、俺の欲望を刺激する。まるで、彼女が俺のモノとなったかのような錯覚を覚える。
だからだろうか。我ながら、謝罪の言葉にも何ら力は入っていなかった。
「ふ……あ? いえ……貴方が謝ることなどありません。貴方が謝るようなことでは……」
しかし、セイバーは俺を許すようなことを言う。ただ、まるでそれは譫言のようで、どこまで彼女の本心を示しているのか、俺には判断できなかった。
「そうだ。彼女はあなたの精液を浴びて、とても喜んでいるのだから」
「お、おい……それはないだろ。取りあえず、いい加減に離してくれ」
俺の非難の声に、しかし、彼女は聞こえないと言わんばかりにそっぽを向く。
「くく、我慢も出来ず射精して、出したにも関わらずに、またそれほどいきり立たせて何を言いますか」
俺のペニスを掴んでいる指の力が強くなる。それに負けじと、俺の意志に関係なくそこは膨張していく。まだ、全然出し足らないとでもいうように。
その己の浅ましさを誤魔化すように、俺は声を荒げる。
「う、煩い……それより、そろそろ縄を外してくれ。痛くなってきた……」
「馬鹿な事を。そんな事をしたら逃げるでしょう」
俺の要望をあっさりと一蹴しつつ、アルトリアは物欲しげな目で囚われの少女を見やる。
「くく……精液まみれですね」
「あ……え?」
セイバーは、未だに虚ろな瞳のままだ。
「嬉しいですか……恋い焦がれた男のそれを浴びて」
「あ……そんな。私は、そんな……はしたない考えなど……」
子供が愚図るように、セイバーは弱々しく頭を振って否定する。だが、黒い少女はそんな彼女の仕草すらも嘲笑う。
「……嘘を吐く必要などありません。だって、貴方は私なのだから。その気持ちが判らない筈など無いでしょう……そして、私は貴方のその状態が羨ましい」
そんな事を、少しだけ寂しげに呟いて……アルトリアは少女に擦り寄る。そして、そのままその精液まみれの頬を撫で上げる。
当然、指先には俺の出した液体が絡みつく。
「ふふ……」
そうして、アルトリアは指に付いたそれを、とても愛おしそうに舐め上げた。まるで砂糖菓子のように、何度も何度も指のそれに舌を絡めながら、
「これが、貴方の味……凄いですね」
そんな、聞いてるこっちが恥ずかしさで脳が沸騰しかねない台詞をのうのうと吐いた。
「独り占めにさせるのは……かなり惜しいですね。ふむ、面白い。きっちりと、今度は私自身が搾り取ってあげましょうか」
アルトリアは――どうやったのか全く判らなかったが――縛り上げていた俺の腕を、唐突に解放する。急激に血が流れ出す腕に、軽く痺れを感じながら、俺は一瞬だけ人心地つくことができた。だが、アルトリアはそんな俺を間髪入れずに抱きしめる。
「さて……次は私を気持ちよくして貰いましょうか。手加減などしないから……せいぜい、頑張って貰います」
今度は、全身で。少女は、俺の体を掻き抱いた。いつの間にか、彼女は服を全て脱いでいて、その雪にもプラスチックにも見える無機質な白い肌を惜しげもなく晒していた。
その美しい姿を見て――己の手でその服を剥ぎ取れなかったのが、とても残念だと思ってしまった。
「さて、と……」
セイバーは、俺に抱き付いたまま、体をずらして膝立ちになった。丁度、彼女の顔の目の前に股間が来るように。そして、ふぅっと優しくペニスに息を吹きかけてきた。
「うあ……」
背筋がぞくぞくした。さっき、大量に出して敏感になっている所へこの刺激だ。かなり気持ちが良い。こんな行為を、あの黒い少女がまるで娼婦のように笑いながらしているというのは、とても背徳的で――
だから、俺のそこは既に膨張し始めていた。さっきはたった一回だけで、根刮ぎ出し尽くしたようにも感じたが、まだまだ残っているらしい。
「くく、強がりは言っても、体は正直ですね。照れる必要はありません、素直に喜びなさい。だいたい、女にここまでさせて、拒むなど……男が廃ると言うもの、でしょう」
アルトリアの口調に、熱が籠もる。ペニスに吹きかけられる息は、それだけで火傷しそうな温度だった。
「口ではどう言っても、体はそれを望んでいる……いい加減に認めなさい。まあ、私は貴方が否定しようがすまいが気にしませんが……」
「は……く、待て……」
随分と勝手なことを言う。だが、反論しようにも、俺の体は反応しているのは事実で……
「それでは、遠慮無く頂きましょうか」
少女は口を半開きにすると、ちろり、と真っ赤な舌を蛇のように見せびらかす。そうして、その舌を……俺のそこに這わせ始めた。
「あ……」
ただ、それだけだというのに――瞬間、俺の脳はあっさりと壊されてしまった。
「……やり方は知ってますが、経験はありませんから。痛くても許してください」
「だから、よせと……言ってるだろ」
それでも、壊されても俺は無意識のうちに彼女を拒む。どうして、そこまで彼女を拒むのか……そして、彼女を拒みつつも撥ね付けられないのか、自分でも判らなかった。それは、彼女の名前を口に出して何故か呼べないのと同じ違和感だった。彼女を受け入れては駄目だと……そう思いつつ、その意志を覆してしまいたいという欲望。
「……そうしても、私を拒むのですか」
抱き付かれた腰が熱い。それで、気付いた。いつの間にか、彼女の身体が随分と熱を持っていることに。
……彼女が興奮しているという事実に、さらに興奮が高まる。それでも、どこかで――彼女を受け入れるのを怖がる自分がいた。
アルトリアは、俺を挑発するかのように、膝立ちからしゃがみ込むような座り方に変える。当然、彼女の股は大きく広げられて丸見えだ。視線はそこに釘付けになって、もう他の物なんて何も見えない。
そして、少女は一瞬、本当に一瞬だが、まるで俺を射殺すような――寒さで凍え死にそうな――目でこちらを見た。
「――それとも……貴方にとって、私はそういう存在ですか」
一瞬だけ、あの時の物に戻った口調。それに、既に壊れていた脳は暴走し始めた。
「……アル……トリア!」
今まで……拒んでいた名前があっさりと口から漏れ出た。
それと同時に――彼女の、アルトリアの目が光ったような気がした。目端に、まるで水晶の欠片のような何かが――一瞬だけ見えたような……それは、涙のようにも見えたが。
「うあ……!?」
それを確認する前に、突然鈍い刺激が襲いかかってきた。
ふと、気づけば。腰に回されたアルトリアの手が消えていた。いや、単に離れていただけだ。彼女の手は、今、俺のそれを愛おしそうに両手で包み込んでいる。柔らかく規則的に陰嚢を揉みほぐし、静かに快楽を送り続けている。
彼女は俺の反応を楽しむように、どことなく怖がるように伺っていた。
そこに、今までの高慢とも取れる態度は微塵も見られず――まるで、あの時俺を見上げて死を当然のように受け入れていった彼女を思い出させ――
「あ……くぅ」
それに気付くと、もう駄目だった。
「ぐっ!?」
乱暴に、俺の股間に顔を埋めていたアルトリアの頭を掴みあげる。これまで拒み続けた体は、その間に溜め込んだ鬱憤を晴らすかのように、その小さな口に怒張したそれを突っ込む。それこそ、壊してしまうくらい乱暴に。
「ふっ……ぐ、がぁ……!? ご――ぐ……!」
乱暴な仕打ちに、アルトリアは目を見開く。唐突な変化に戸惑い、ただ為すがままになっている。俺は、その表情に思わず――さらに腰を叩きつける。
「うが、ぐぇ……ま……う!?」
とても気持ち悪そうな声。吐き出してしまいたいのに、吐き出せない。
少女は、目に涙を浮かべてされるがままだ。舐めるとか、吸い込むとか、そういった技工など施している余裕なんてない。それどころか、窒息しないように耐えるだけで精一杯だ。
だが、構わない。ペニスの至る所に歯が当たって痛いくらいなのに、それさえも快楽となる。それも当然。高貴な少女を足下に侍らせ、その口に無理矢理、ただ快楽だけを求めて突っ込む。とてつもなく背徳的で、足下が崩れそうなくらい恐ろしいことだった。
――何もかも、奪ってやりたい。そう思う。奪い取って、全部自分のモノにして――今度は、絶対に――手放したりはしない、と。
だから、アルトリアの考えなんて無視してやる。視界の端に移る彼女も、後で俺が嬲ってやる。だって、そうでもしないと、彼女たちはさっさと自分勝手に出て行ってしまうだろうから。
「凄……とても暖かい。痛……だけど」
口の中は熱く、突っ込んでいるペニスが蕩けてしまいそうだ。逃げ場を失った唾液は溜まる一方。唾液とペニスが奏でるぐちゃぐちゃという卑猥な音は、聞くだけで気絶してもおかしくはないほど心地良い。
そして、そんな快楽はすぐに終わりを迎える。当たり前だ、後先考えず、ただ気持ちよさだけ追って腰を振るのだから、すぐに限界は訪れる。
「ぐ……出、る!」
相手のことも考えず、俺は目一杯アルトリアの口の中に精液を吐き出した。
「く──っ、──っ!」
三度目にも関わらず、自分でも信じられない量が吐き出される。どくん、どくんと何度も遠慮無く放出され、アルトリアの口からそのまま溢れ出るほどだった。
「は──あ、あ……は、はあ……あ」
ようやく全て出し終えると同時に、心地よい疲労感が体を覆う。そうして、俺はアルトリアの頭から手を離す。口を押さえ込まれていたアルトリアは、堪らず口内に溢れた精液や唾液に噎せ返る。
「げほ……かは──あ」
アルトリアは、俺の精液を飲みきれずに吐き出す。本人の言葉通り、慣れていないのか……それでも、出来る限り飲み干そうとでもいうのか、口元を押さえて天を仰ぎ無理矢理嚥下する。
「はあ……はあ……」
一方の俺は、マラソンでもした後のように、全身の筋肉が弛緩する。体はだるく、指一本さえも動かせないと錯覚するほど。
──気怠い。そして、同時にかなりの罪悪感が胸を襲った。何という乱暴なことをしてしまったのかという、苦い感情だ。
「……こほ」
しかし後悔と言うほどではない。未だに咳き込むアルトリアを見て、自分でも意外だが何故か満足感さえある。それは――
「ふう……また随分と乱暴に扱ってくれたものです」
どういうわけか、彼女も満足そうに笑っていたからだった。また、言葉遣いが乱暴になっている。だけど――
「……アルトリアが、そうしろと言ったんだろう」
「……くく、確かにそうです。いえ、別に非難したつもりではない。私自身、こうされるのは嫌ではないので……」
アルトリアは立ち上がると、俺に手を差し伸べてきた。
「ようやく、名前を呼んでくれましたね」
そうして、彼女は満面の笑みを浮かべた。それは、これまで見たこともないくらい晴れやかで……思わず、見惚れる。俺が名前を呼んで、彼女がどう思ったのか何て判らない。でも、その笑顔はとても綺麗だと思った。
「さあ、次は彼女も満足させてやりましょうか。ずっと、お預けを食らっているせいか、また物欲しげにこっちを見ている」
アルトリアの指し示す方向には、俺と同じく、いつの間にか鎖が外されていた白い少女がいた。彼女は、眼を皿のようにしながら――無意識なのだろう、手で股間をまさぐっていた。俺がアルトリアの口を犯している間、何度も絶頂に達したのか、目は光を宿さぬほど快楽にれている。
そこに、黒い少女は音もなく忍び寄る。セイバーは、アルトリアの動きを目で追っているようだが、彼女に反応することはない。ただ、虚ろな目で追うだけである。
「ふふ……我慢しきれずに、ですか。さあ、まだ出来るでしょう。今度は、私たちを完全に満足させてください」
「……え? あ……」
椅子に座る白い少女へ、無遠慮にのし掛かる黒い少女。そして、セイバーは現状にようやく気付く。
自らの格好――自ら青いドレスを引き上げ、無造作に秘所を指でなぞり、だらしなく股を広げて呆然としているという――に気付き、一気に真っ赤になった。まるで、熱湯に入ったかのように。
「待ってください――見るなと……!」
「いえ、見せて差し上げなさい。次は、貴方と私、両方が一緒に気持ちよくなるのだから」
否定するセイバーを、やんわりと宥めるアルトリア。両方とも、同じ存在なのに、こうして重なり合うとかなり異なって見える。
蝋のように白い手が、白銀のように白い手を掴む。そのまま、黒い少女は白い少女にしなだれかかり――抵抗らしい抵抗もせず、セイバーはアルトリアによって抱きしめられる。
白い少女は黒い少女の為すがままだ。黒い剣と白い剣が重なり合う。胸も、腰も、そして真っ赤に爛れながらも清らかな秘所も合わさりながら。
「……さあ、早くしなさい。女を待たせる物ではありません」
「あ……く」
二人とも、目は期待に満ちあふれていた。
何をすべきか。そんな事は判っている。俺は、さっきあれだけ出したのにまたしても固くそそり立った己のそれを晒しながら、彼女たちに近づく。
「あ……」
「……そう怖がることはありません。お前も、私も初めてですが……何、彼の物ならば、受け入れるのは寧ろ祝福といえるでしょう」
彼女たちは期待に満ちた目で、こちらを見ている。なら、一切遠慮などする必要はない――
まずは、アルトリアの膣口に割って入る。
「ぐ……う……!」
途端、少女は苦悶の声を上げる。みちみちと入り口が軋む。がちがちに固まったそこは、急激に俺を締め付けてくる。
――狭い。一気に押し通ろうと思ったが、これではとても無理だ。徐々に、ゆっくりと腰を突き出す。入っていった分だけ、食いちぎられそうなほどにきつい。四方八方から締め付けてくる。俺でさえこれほどの苦しみなら、受け入れている少女の方は一体どれだけの――
だが、背中越しにこちらを見たアルトリアの顔は、とても晴れやかだった。苦痛で眉は歪み、頬は苦痛で引き攣り……それでも少女は笑っていた。思わず見惚れるほどの迷いの無いその笑みは、まるで長年の夢が叶えた少女のような――
その顔を見て、迷いは消えた。助走をつけるために一度だけ僅かに腰を引き、そして一気に突き上げる。
「―――――!」
何かを裂いたような感覚。今度は、奥まで到達した。同時に、アルトリアは脱力して、白い少女の体に体を投げ出すように倒れ込む。
「ふあ……あ……中で、脈……打ってる、黙ってても、腹の中が──かき、回されてる、みたい……」
そして、苦しそうに、だが満ち足りたような感慨深い顔でそんな事を言う。無理矢理に口元を歪ませ、しかしその微笑みに嘘はない。
「く、はあ……さあ、どんどんと突いて下さい。獣の如くな……私だけじゃなく、彼女も……」
「あ……え?」
「くく……まさか、ここまで来て逃げ出すような臆病者でもある、まい。これは、貴方が望んだことでしょう。それに……これはとても満たされる」
セイバーは戸惑う。その戸惑いの顔が、とても魅力的に映る。思わず、俺は少女からペニスを引き出した。
「あ……?」
唐突に生じた消失感からだろうか。セイバーが切なげな声を上げる。その声に何となく満足しながら、俺は覆い被され身動きが取れなくなっているセイバーに話しかけた。
「は……あ……セイバー、ごめん。入れたい」
ストレートな懇願。相手の意見など受け入れないほどの強引さだと妙に冷静に自覚する。だが、俺の腰は止まらない。さっきまで繋がっていた少女のすぐ舌にある膣に、己のペニスを押し当てる。
「……ぁ」
俺のペニスを感じてだろう。これまでも真っ赤だった少女の顔は、さらに赤く熟す。全身の血液が浮かび上がっているかのようだ。一気に染まった彼女の肌は、こちらを異様なほどに興奮させる。
一刻も早く、入れてしまいたい。一刻も早く、繋がりたい。
だから――彼女が、伏し目がちにこくりと頷いた瞬間、俺は考えなしに腰を突き出した。
「ふあ……あ、う、あ――ああ!?」
黒い少女をも上回る悲鳴にも似た――いや、悲鳴そのものの嬌声。急激な圧力が四方八方から亀頭を締めつける。一気に貫く事は不可能だったが、俺の腰の動きは止まらなかった。二度、三度腰を突き入れ、何とか奥まで到達する。
――きつい。感じられるのは痛みだけで、気持ち良さなど感じないくらい少女は俺を締め付けてくる。だが、それでも彼女を貫こうとするのは、少女を己の物にしたいというエゴからだろうか。
もう、絶対に離したくなんて無い。彼女たちの二人とも、どちらとも。
近くにいたのに、助けられなかった白い少女。己の手で止めを刺してしまった黒い少女。
それを手に入れたい。手に入れて、絶対に手放したくは……
「ん……あっ、は──ん、あ……え……ぜ、んぶ──入っ……た……ですか?」
「……ああ、全部、セイバーの中に収まってる」
戸惑ったような、怖々とした声でセイバーは問うてきた。それに答えながら、俺はセイバーを突き上げる。
「……あっ……く」
まだ痛みから、その声は快楽とはほど遠い。だが、同時に愛おしさも含んでいた。痛みに耐えるその姿は、とても綺麗で……同時に耳に届く、淫猥な音との差異が、興奮を際限なく高めていく。
「は──あ、ん……!」
それは、アルトリアも同じなのか。いつの間にか、交互に抜き差しするようになった俺のペニスに、二人の少女が全身で応じる。まだ痛みも引いていないだろうに、己から腰を動かし始める。
「ふあ……」
唐突に始まった動きは、かなりゆっくりだった。だが、徐々に大きく、激しくなっていく。この程度の痛みで、私が止まるわけがないだろうとでも主張するかのように、少女たちは意地になって腰を振り乱す。
「……あっ……ふっ……」
「あ……セイバー……アルトリア……」
既に、どちらに挿入しているのか判らない。いや、そもそも二人は違う存在なのかも不明瞭になってきた。目の前のように二人に別れていることの方が、おかしいのだから、どちらがどちらでも良いじゃないかと混乱した頭で結論を出す。
「……くっ、あ……ぜんぶ、入って……私の中に……なんだか、凄く――嬉しい、私は……」
セイバーたちは、高ぶった竿を最奥まで飲み込んでゆく。中は食いちぎろうとでも言うかのように俺のペニスを締め上げる。俺の意識は、あまりの快楽に焼き付く寸前で、もう何も考えられなくなっていた。
「お願い、です……もっと、わたしを……」
「ああ、判って……る」
痛みを堪えて、懇願してくれるセイバーたちに俺は必死に答えた。いや、もうそれは自分の意志を離れていて、もうがむしゃらに突きまくるだけだ。
それは、気持ち良さだとか支配欲とかそんなんじゃなくて……
「何か」
凄く、幸せな気分だったから。
「──あぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「……セイバー……!」
俺は、彼女の胎内で弾けた。どくどくと、白濁した精液を彼女たちに注ぎ込む。煮えたぎるように熱いそれが、彼女たちを満たしていく。
「ん……んぁぁ、あ……あぁ……」
「ふあ……ああ」
それまでの射精と違い、俺自身も満たされていく。快楽とは違う、何か別の感情が体中に沈殿していく。
「……アルトリア」
粗い息の中、俺は彼女の名前を呼んだ。それに、少女は――少女たちは――振り向いた。その目は、一瞬だけ一瞬紫色に四角く光ったような……
「……?」
それに既視感を覚えると同時に、一瞬で俺は眠りに落ちた。抵抗する暇もない。ただただ、一瞬で体が泥になったかのように、足下から崩れ落ちる。
その刹那。
「……貴方の方はどうだか知らないが、私は貴方と出会えた事を後悔してはいません……シロウ」
最後に、最後だけ、彼女は俺の名前を独特のアクセントで呼んでいた。どちらが胃ってのかは判らないけど……そんな冷たく暖かい言葉を聞きながら、俺は眠りに落ちていった。
「……あれ?」
起きると、何だか随分と気分が良かった。なのに、体は恐ろしく重く感じる。全身、鉄の塊がまとわりついているかのように。
「……なんだろ」
寝起きだからだろうか。何とか全身の力を振り絞って起き上がる。こんな感覚はあまり記憶にない。
布団から出て、居間に向かう。まだ、家の中は大分静かだ。普段から朝は早いけど、今日は格別早く目が覚めたらしい。その割に、眠気は全くない。だが、体は重労働をしたかのように疲労している。
「うーん、参ったな……今日はバイトなのに」
考えても判ることではないが、この人形の体に異常が生じているとも限らない。明日も体が重く感じるようなら、倫敦にいる遠坂に相談した方が良いんだろうか。幸い、今日のバイトはそう体を使う物じゃないから、支障はないと思うけど……
そんな事を考えていると、ライダーが自分の部屋から出てくるのが見えた。
「あ、ライダー。お早う、また随分と早いな」
「……士郎ですか。お早うございます」
微笑みながら、挨拶を交わす。だが、ライダーはすぐに眉を顰めた。
「……士郎? どうかしたのですか。妙に歩き方がぎこちないですが」
「ああ……」
流石はサーヴァント。すぐに俺の異常に気づいたらしい。特に隠すことでもないので、少々体が重いことを伝えた。さほど酷くもないので、しばらく様子を見ようと思う、ということを言ってみる。
「……大丈夫ですか?」
「いや、心配ないよ。体はきちんと動くし」
そういうと、ライダーはそうですか、と言って。
「ですが、無理はしないように」
「判ってるって。気分が悪くなったら、すぐに言うから」
腕を軽く回しながら、大丈夫だとアピールしてみる。ライダーは、クールなように見えて多分に心配性な所がある。それは悪いことではないのだけど、普段とのイメージのギャップがあってちょっとおかしかったりする。だから、思わず笑みが零れてしまった。
「……ちょっと気になる笑いですが、まあ気分が悪いわけではないようですね」
「そういうこと。ま、気分が悪くなれば言うさ。それより、心配してくれてありがとな」
そう言うと、ライダーはしばし口籠もる。
「まあ、別に大したことではありません」
と、そっぽを向いてしまう。照れて、いるのだろうか。横顔からでは、よく判らないけど。
「さて、それじゃ飯でも作るか。ライダー、何かリクエストがあれば作るけど?」
「いえ、特にありません」
「そっか」
じゃあ、普段通りに和風で良いか。飯はまだ昨日炊いたのが残っていたはずだし、あとは味噌汁に、おかずとして魚の切り身でも焼いて――
「……」
と、色々メニューを考えていたら、ライダーが何やら呟いたような気がした。
「? 何か言ったか、ライダー」
「いえ、何も?」
ライダーは、普段と変わらない様子で否定した。そうか。だったら俺の空耳か何かだろう。
「そっか。呼び止めて悪かったな」
「いえ、それでは私はこれで。朝食を楽しみにしていますので」
顔を洗うためだろうか、ライダーは洗面所の方に足を向ける。
さて、とっとと台所に行って準備をしようか――
「……シロウ、か」
以前、彼に懇願されて直された口調で彼の名前を呼んでみた。本当に小さな声で、絶対に気付かないと思ったが――しかし彼は反応した。
「……」
昨日、士郎に淫夢を見せたのは単なる悪戯心から。しかし、ライダーは少々後悔していた。流石に、あのような夢を見せてしまったのは罪悪感が残る。
己の大事な主が夢に出てこなかったのは腹立たしいが、それでも彼が――彼女が哀れに思ったから責められない。
「……セイバーか」
よくよく考えれば、彼女と話し合う機会は一度も無かった。ずっと敵対していたのだから当たり前だが。だが、ほんの僅かだけ相対した感触からして、おそらく徹底的に気が合わないことは予想できた。それでも――かつての己と同じトーンで彼の名前を呼んだというその声をじっくりと聞いてみたいかったとも思う。
もっとも、それは最早叶わない夢。彼が見た夢と同じく、叶わぬ夢だ。
「――」
立ち止まる。縁側からは、綺麗な青空がよく見える。それが、何となく物悲しかった。